No. 78　2007年8月　（2001年1月　開設）

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・飛山城跡を歩く

・ 　29.　馬頭観音

石仏を訪ねて、今回は馬頭観音。馬頭観音や馬頭観世音の文字塔には、よく出会うが、石仏の姿で残るのはそれほど多くはない。上の石仏は、山王峠で出逢ったもの、温和な表情の観音さまなので、ほかの観音と見てしまいそうだが、頭には、馬の頭が乗っている。栃木県の三依から福島県の会津に抜ける道路は、いま、トンネルを通る。以前の道路は峠を越えていて、いまも舗装の跡は残っているが、車は入れない。峠から西の尾根に登ると、もっと前の歩道の名残が微かに残る。この山道を歩いた途中で出会ったのが、この石仏、弘化元年１１月７日、施主中三依大黒屋と彫りはしっかり読める。１８４４年のものだ。江戸時代後期、馬に荷を乗せて峠を越えた商人の馬への感謝が伝わるような穏やかな観音様だ。秋訪れた時、明るい紅葉に囲まれ、赤黄色の葉の錦の絨毯の上に小さく納まっていた。 　馬頭観音は、仏教の観音菩薩の一つ、梵名ハヤグリーヴァを訳して「馬の頭を持つ」仏で、六観音の一つとされる。馬頭観音菩薩、馬頭観世音菩薩、馬頭明王と呼ばれ、衆生の無知、煩悩を排除し、苦悩や災難など諸悪を粉砕するという。そのため、観音というより、明王にも似て、憤怒の相で表され、荷物を運ぶ馬を守る観音でもあったようだ。また、馬が亡くなった路傍に建てられることもあったらしい。 　憤怒の相の三面八臂の観音（写真下）は、山王峠を栃木県側に下り、中三依から入った芹沢部落の入口で見かけたもの、頭の馬が認められる。手は８本あると見る。この観音像の右の石碑には、馬力神と彫られている。明治３２年とあり、下のほうには、馬の姿が線彫りされていた。馬力神というのに逢うのは初めてだったが、馬頭観音が仏教からとすると、馬力神は、神社版ということらしい。やはり愛馬の供養のために建てられたものとのこと、宮城県と栃木県で見られるという。幕末に出現し明治時代にもっとも多く造立され、栃木県には、２００余りの石塔が見られるという。仏と神が、道路わきに並び、馬に替わって人や荷を運ぶようになった車の通りを見下ろしていた。 　馬頭観音や馬力神は、ほかにも見られると思うので、またとり上げることもありそう。１７．トーマス・ベイティの項でも、英文馬頭観世音を取り上げておいた。